INNOVATE NEXT [南極テクノロジー 開発秘話]

05 INNOVATE NEXT 限界の、その先へ。

南極への挑戦。それは、
住まいの限界に挑むこと。

マイナス60℃超、
風速80m/秒の
ブリザードよりも、
厳しい条件。

陸地の97%以上が平均2,300mもの厚い氷に覆われている南極大陸は、人間を容易に寄せ付けない極寒の地だ。1956年、日本は国際地球観測年への協力・参加のため、この未知の世界に観測隊を派遣することになった。戦後の復興期、国民に明るい希望を与える南極観測隊の派遣は、まさに官民一体の国家プロジェクトであった。
そこで必要となったのは、越冬するための安全な建物だった。南極建築委員会に伝えられた要請は、極めて厳しいものだった。「厳冬期の最低気温マイナス60℃超、風速80m/秒のブリザードも珍しくない過酷な自然条件下でも安全で快適な建物であること」「建設機械はないため、人力によって素人の
隊員が建設できること」「輸送の問題から、部材の大きさ・重さに制限があること」「建設期間は最大1ヶ月」などこれらの諸条件を満たす案が検討された結果、「木質パネル構造による組立式建物」に白羽の矢が立った。すぐれた断熱・気密性、軽量性、そしてなにより重要な施工性が評価された
のだった。ミサワホームも第9次隊より南極建物に関わるようになり、翌年には第10住居棟を受注。国家プロジェクトの一員として加わり、以来2023年現在に至るまで、延べ約5,900㎡、36棟におよぶ建物を手がけていくことになる。

プレッシャーの中で、
「素人」が建てた基地のシンボル。

1992年1月、南極では短い夏を迎えていた。しかし夏とは言っても、マイナス10℃という極地の寒さは、昭和基地の管理棟建設担当者の想像をはるかに超えるものだった。厳寒の中、膨大な数の資材をようやく運び終えた隊員に、今度はブリザードが襲いかかる。彼らは日本では仮組立ての経験を積んでいるものの、建築に関しては素人同然の者ばかり。風速30m/秒ものブリザードが吹く南極では、
30cm角程の部材でさえ持った途端にあおられ、吹き飛ばされてしまう。だがそれより恐ろしいのはホワイトアウトだ。光が雪に乱反射して発生する現象のことであり、左右上下の方向感覚も距離感覚も失われる。その中での作業はすなわち死を意味していた。遅々として進まぬ作業にいらだちを募らせる彼らに、想定外のトラブルも追い打ちをかける。寒さのためかパネルと接合部の穴のサイズが
合わなかったのだ。それも何箇所も。そんな数多くの困難を超えて、休日もなく朝8時から夜11時まで作業を続ける隊員たち。そして、奮闘すること約90日。頂にドームを配した巨大管理棟がつい
に完成した。素人たちがつくりあげ、白夜に照らされて輝く基地のシンボル。一同は、いつまでもまぶしそうに見上げていた。

越冬隊長からの
うれしい一言。

冬の南極は、夏以上に恐ろしい。ほんのわずかな原因で、命を落としてしまう危険性がある。1960年10月10日、第4次隊の福島紳隊員は、猛烈なブリザードの中を海氷上のそりを点検するため外出して行方不明となり、1968年に4kmほど離れた場所で遺体で発見された。そんな痛ましい事故を二度と繰り返してはならない。観測隊員のために、より安全かつ快適な生活空間をつくろう。
そして1996年の完成を目指して第一住居棟が計画された。木質パネル構造には変わりないものの、個室に加えラウンジや床暖房までが備え付けられている。しかし、大型施設ゆえ、苦労も並大抵ではなかった。日本で資材の準備にあたっていた担当者二人を悩ませたのは、膨大な量の資材の梱包作業であった。1棟あたりの梱包数は1,000〜1,200にのぼる。数日にわたり徹夜での作業が続き、その
場で眠りに落ちる二人。ふと目覚めると、ジャンパーに霜が降りていたこともあった。そんな二人にとって、忘れられない言葉がある。多くの苦労の末に第一住居棟が完成し、越冬隊員の帰還を祝ってレセプションが開催されたときのこと。越冬隊長は、招待された二人を見つけるや手を握りしめてきたのだ。「快適な住居棟をつくってくれて、本当にありがとう。」二人共に感無量の瞬間であった。

南極での体験を、
子どもたちの
夢と希望に。

およそ半世紀に渡り、南極の建物づくりに携わってきたミサワホーム。建物の設営の専門家として、2022年現在までに延べ26人のグループ社員を南極地域観測隊に派遣してきた。この貴重な経験を、次世代を担う子どもたちに伝えたい。きっかけは、2011年3月の
東日本大震災だった。災害に見舞われた子どもたちが絶望しないよう、何かできることはないだろうか。そうして始まったのが「南極クラス」だ。元隊員たちが帰国後、子どもたちにとって“未知の世界”である南極での活動を伝えることで、未来を背負う子どもたちに
夢と希望を届ける教育支援プログラムである。東北地区の小・中学生対象にスタートし、2021年度までに延べ1,984校で20万人以上を対象に開催されている。大きなモニターに映し出される、一瞬でまつげが凍るマイナス30℃の世界や、ブリザードの凄まじさ、
オーロラ、ペンギンの群れる姿に、子どもたちの目は釘づけになる。また、限られた人数で支え合ってミッションをこなしていく南極隊員の経験を通して、仲間の大切さやチームワークの大切さも伝えている。南極を知ることは、地球の未来を知ること。南極から地球環境を学び、これからの暮らしを考える。それは、子どもたちだけでなく、ミサワホームにとってもこれからの住まいを考える貴重な糧になるに違いない。

写真提供:国立極地研究所

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